改訂版 : 11th December 2004
(初出 : 5th October 2004)
前書き | |
居飛車穴熊の基本的な組み方 | |
3枚穴熊 | ▲6七金型穴熊 |
居飛車穴熊での『駒の役目』 | |
居飛車穴熊のバリエーション | |
穴熊を示唆する構え | |
まとめ |
急戦編から約10ヶ月。居飛車穴熊を題材にしてみようと思い立った。
今回のきっかけは、「居飛車穴熊はやはり、対振りの最有力策」だとえばぁが思ったから。
振り飛車を始めてしばらくの間は、有無を言わせず仕掛けてくる急戦のほうが嫌なのだが、急戦相手にいい勝負ができるようになると、今度は玉が堅くて遠い居飛車穴熊が嫌になってくるのだ。
居飛車でも同様、始めのころは方針がわかりやすい急戦のほうが扱いやすく感じるのだが、相手がレベルアップしてきて徐々に振り飛車の寝技に持ち込まれていくようになると、あの美濃囲いがやたらと腹の立つ存在に見えてくるようになる。
その憎しみ(?)から「玉の堅さは正義だな」と言う気持ちになると、居飛車穴熊に出逢う。
えばぁが居飛車穴熊を取り上げようと思い、ルーズリーフとペンを取って、こころにうつりゆくよしなしごとをそこはかとなくかきつくると、「歴史・組み方・理想図・振り飛車の対策」と言う4つのまとまりになった。すると、問題はどこに重点を置くかということになる。
ちょっと悩んだあと、「居飛車穴熊の組み方・理想図」を中心に構成することにした。
しかし当然、振り飛車側の対策にも触れる必要がある。相手の対抗手段を1つに絞って解説するような都合のいい書き方はしたくない。「四間飛車の急所 2」を読んだあとなので、気持ちだけはプチ藤井猛になっている。
なので、「導入編」として居飛穴の作り方、完成図を解説した。
そして次回から4つある振り飛車それぞれに対し有力な形を取り上げ、突っ込んで研究することにした。
壮大な目標だけ語ると、藤井システムが載っていないから「『羽生の頭脳』の中でも、今では一番役に立たない」と言われてしまう『羽生の頭脳4巻』を、現状に合わせ改訂したようなものを目指している。
(言ってしまった)
えばぁは天下の羽生には程遠いが、羽生の頭脳4巻を全面改訂した本の、10分の1くらいの出来にはしたいと思う。
まずは『作り方』がわからないとどうにもならない。
と言うわけで早速、よく実戦で見ることが出来る穴熊2種類の組み方を解説する。
とにかく何度も並べて、組み方を頭に入れて欲しい。
A1図 |
初手から
まだ舟囲いにもなっていない図だが、ここが基本。 |
A2図 |
A1図から
▲5七銀は上部への備えと同時に、『持久戦志向です』と相手に意思表示している意味がある。 |
A3図 |
A2図から ▲8八玉と寄って、▲9八香は『私は穴熊にします!』と示した手。 |
A4図 |
A3図から
▲9八香と上がったら、▲9九玉から▲8八銀は何が何でもさっさと指したい手。 |
完成図 |
A4図から 上の手順の他に、A4図から『▲5九金右 ▲7九金 ▲6九金右 ▲7八金』と言う手順もある。これは離れ駒を無くしながら金を寄せる細かい手順だ。場面によって使い分けていただきたい。
『▲6九金右のところ、▲6八金右でもいいのでは?』と思うかもしれない。 |
4枚穴熊への進展を目指す場合は、『▲6六銀 ▲6八角 ▲7七銀引』と続ける。
そこまで組めれば、堅さだけは相当のものだ。
B1図 |
初手から
3枚穴熊のA1図と何が違うかと言えば、▲5八金右の一手である。 |
B2図 |
B1図から ▲5七銀、▲7七角の意味は3枚穴熊と同じ。▲5八金右の一手分、A2図と比べ上部に厚くなっている。 |
B3図 |
B2図から ▲6六歩と突くのが▲6七金型穴熊への進展を見た手である。 |
B4図 |
B3図から
ここはどんな穴熊だろうと同じ。 |
完成図 |
B4図から
5八の金を6七に上がり、6九の金を7九に寄せれば出来上がり。 |
基本図 |
次に、居飛車穴熊を指すときの、それぞれの『駒の役目』について解説する。
まずは基本図を見ていただきたい。 |
1. 右銀 - 攻めか守りか
居飛車穴熊の右銀は、基本的には5七に上がる。▲5七銀とすることで、相手が四間飛車の場合の△4五歩~△4六歩をあらかじめ受けているという意味がある。
もちろん、▲5七銀保留(銀が4八のまま)と言う指し方も存在し、これはこれでメリットがある。例えば角を7七から6八に引いたときに2筋を直射する。また、振り飛車の桂馬が跳ねても銀取りにはならない。
保留していても、穴熊を組み終わった後はだいたい▲5七銀と使う。
玉が穴熊の中に納まったあと、この銀にどんな役割を与えるかは、指す人の自由だ。
攻めに使えば玉はそれ以上堅くならないが、当然攻めに厚みと幅広さが生まれる。
固めるのに使えば玉は堅くなるが、基本的に飛角桂香のみで手を作らなくてはいけない。
将棋の格言に『攻めの基本は飛角銀桂香』というのがあるように、穴熊初心者ならば前者をお勧めするが、あくまでもここは「自由」である。
2. 右金 - 四間飛車と、それ以外
居飛穴の右金は、以下の2パターンの動き方がある。
1.4九(初期位置)~5九~6九~7八
2.4九~5八~6七
1の動き方が、居飛穴における基本の右金の移動である。
金は一段目に居る限りすべての方向に利きがあるので、「動かなくても働いている」と言われるほどである。この移動の仕方は、金の特性を十分に生かした動き方だ。4九~5八~6八~7八よりずっと安定感がある。
2の動き方は、穴熊感覚では特殊な動き方になる。
だが、実戦に現れる数は1より断然多い。2の動き方は、相手が四間飛車のときに使う必要があるからだ。
居飛穴の右金の基本は、1の動き。四間飛車以外の振り飛車を相手にするときは、こちらをお勧めする。
しかし振り飛車党の半分以上は四間飛車であるため、結局は2のほうを多く使用せざるを得ない。最近では2の動きが「対四間飛車での右金の定跡」となっている。
3. 角 - 序盤で交換してはいけない
▲7七角と上がる。『俺は、居飛車穴熊にする気だぞ』と言う意思表示。
でも本当はまだ、左美濃などの可能性も残っている。
上がったあとは、特に囲いには関わらない。
しかし、穴熊を組んでいる途中で振り飛車が角交換を挑んできたとき、ほとんどの場合は交換してはいけない。
角を交換すると、居飛車穴熊のほうが角打ちのスキが多いのである。
なのでそのときは、▲6六歩や▲6六銀と角道を止め、角交換を避けることになる。
穴熊完成後は、6八や5九(~3七や2六)に引いて活用することが多い。
完成後は交換を必要以上に恐れることはない。
4. 左香 - 上がった瞬間が急所
▲9八香と上がって玉が収まる場所を空ける。
この手を指してやっと、『俺は居飛車穴熊にするぞ!』と明示したことになる。
香を上がる手は穴熊に潜るため最も重要な手だが、穴熊に入らない戦いになると、相当の損になる。▲9八香と上がったということは、あとの2手で▲9九玉~▲8八銀と指し穴熊にするつもりだと宣言していることだと言ってもよい。
『▲9八香と上がったらもう穴熊以外のことを考えない。』 それくらいの気持ちがないと上がるべきでない香だ。
陣形が最も不安定なのがこの▲9八香から▲9九玉と入り、▲8八銀と閉まるまでの間なので、振り飛車はこの瞬間を狙って動いてくるのがほとんど。
5. 玉 - 取られちゃいけない
囲いが穴熊だろうがなんだろうが、将棋で最も大切な駒。
穴熊の場合は、5九から6八~7八~8八~9九と動く。
今穴熊が多用されるのは、穴熊が手付かずで残っている場合、『相手にどんな駒が何枚あろうが、絶対に王手がかからない』のが強みであるからである。
6. 左銀 - 穴熊の「フタ」
玉が9九に潜ったあと、▲8八銀と閉まる。(穴熊の)『フタをする』『ハッチを閉める』という言い方をすることもある。
穴熊の将棋では最低、▲8八銀と閉まらないと一安心とは言えない。
7. 左金 - 振り飛車の目標物
基本は▲8八銀と閉まったあと、▲7九金と寄る。最近は▲7八金と上がるのもある。
穴熊を組むときも、組んだあとも、最も狙われやすい駒。
前者はよく浮き駒になるのが、後者は定位置の7九が角のラインに入りやすいのが原因。相手の囲いの金を剥がしていくのは攻めの基本なので、仕方ない。
初めに書いたように基本的には、▲8八銀と閉まってから動かすもの。
しかし最近は、▲9八香の前に▲7八金と上がって離れ駒を解消してから穴熊に篭もる指し方が出始めている。
8. 左桂 - 穴熊の「パンツ」
玉の横を塞いでいる、動いていないが重要な駒。この桂馬が跳ねると横に穴が開き不安定になる。
俗に「穴熊のパンツ」と言われる。桂馬を跳ねた穴熊のことを『パンツを脱いだ穴熊』などと言ったりする。最初に言ったのはたぶん米長(現永世棋聖)である。
次に、『穴熊のバリエーション』を紹介する。
だいたいこれくらいを頭に入れておいておけば、自分の想定する図としてだけではなく、自分が振って相手に居飛車穴熊を使われた場合でも「相手がどういう形を作ろうとしているのか」と言うのが理解でき、方針も立てやすくなる。
形 |
解説 |
|
3枚穴熊 |
||
4枚穴熊 |
||
ビッグ4 |
||
銀冠穴熊 |
||
▲6七金型穴熊 |
||
▲6七金・▲7八金型穴熊 |
||
松尾穴熊(松尾流穴熊) |
振り飛車 |
どの構えを作ってから穴熊に組みに行くのが良いか |
簡単な理由 |
対四間飛車 |
▲5八金右~▲5七銀~▲7七角型 |
いずれ来る四間飛車の切り札・△4五歩のために▲5七銀と受けておく。居飛車は▲6六歩をどうせ突かされるので▲5八金右と上がり、穴熊の完成形は▲6七金型穴熊(下で解説)を想定しておく。実は、他の組み方では藤井システムが相手のときに分が悪いと言う現実が、(4)が最有力と言う理由に拍車をかけている。 |
対三間飛車 |
▲7七角型 |
三間飛車は飛車が中央から離れた場所にいるので速攻がない。しかも盛り上がるのに時間がかかるので、とにかく早く穴熊に潜るのを優先し、低い陣形で先攻することを目指す。 |
対中飛車 |
▲5七銀~▲7七角型 |
飛車が真ん中にいる時点で中央からの手作りが予想されるので、▲5七銀と備えるのは当然。以降、相手がツノ銀の場合▲5八金右~▲6七金型穴熊を目指す。相手が矢倉流の場合は、こちらの採る方針によって違う。 |
対向かい飛車 |
▲5八金右~▲5七銀~▲7七角型 |
向かい飛車の場合は△2四歩からの速攻が予想されるので、離れ駒をなくしておくのがよい。だが実は穴熊に潜らず、▲7八銀と閉まって左美濃で戦うのが一番無難でしかも有力。 |
ここにある構えを作れば、あとは▲8八玉~▲9八香~▲9九玉~▲8八銀まで流れ作業である・・・と言いたいのだが、振り飛車もスムーズにそうさせてくれるほどマヌケではない。さまざまな手段で揺さぶりをかけてくる。
次回からはこの表で示した構えを基本にして、それぞれの振り飛車に対する穴熊の詳細な組み方と、振り飛車側の揺さぶり・有力な対策を見ていく。
今回はまだ「相手」のことを考えず、盤面図も居飛穴側だけを見て説明した。
だが実戦では相手がいる。手順も様々であり、このように進まないかもしれない。
しかしそんなときでも、『目指す形』があれば進めやすい。駒の使い方を解説したのも、細かい定跡を知らなくても役目を知っていれば方針を立てやすいと思うからだ。
細かい手順の意味がわからないうちは、「形を覚えて、その形になるように考える」ことが大切だと思う。
次回からはいよいよ相手の振り飛車が現れ、盤面も全面使って解説する。
取り上げる(取り上げたいと思う)振り飛車の対策は以下。今あまり指されないものまで取り上げるとえばぁがこんがらがるので、有力・代表的なものにとどまらせていただく。
対四間飛車 | 1). 鈴木システム(△4四銀型) 2). 浮き飛車 |
対三間飛車 | 1). コーヤン流 2). 石田流(組替え) |
対中飛車 | 1). ツノ銀中飛車 2). 矢倉流中飛車 |
対向かい飛車 | △3二金型 |
振り直し型 | |
対藤井システム | 先手藤井システム |
後手藤井システム | |
相穴熊 | 基本形 (四間飛車穴熊、三間飛車穴熊) |
端歩位取り穴熊 | |
力戦振り飛車 | 1). ゴキゲン中飛車 2). 石田流(早石田) |
『島ノート』を買って「穴熊も指そうかなぁ」なんて言っておきながらすぐにあきらめてしまった、『対振り飛車には急戦』党の皇帝くんにもわかってもらえるような説明を心がけたいと思う。
しかし結局、そこ・・・と言うかこの文章自体、自己満足になってしまうのである(笑)
それはそれで嫌なので、何かあったら忌憚なく言っていただきたい。皇帝くんじゃなくても。
2005.11.4追記
結局、1年以上かかってしまった。(しかもやっつけ模様)
書いている間に結論が変わってしまったりした部分や、詳しい棋書、例えば四間飛車であれば渡辺明『四間飛車破り』を読んだほうが、四間飛車については網羅されているのでいいだろう。ああいう風にしてみたかった(笑)
参考文献・サイト・人
羽生善治 『羽生の頭脳 4 居飛車穴熊と左美濃』
深浦康市 『これが最前線だ! 最新定跡ガイド』 『最前線物語』
藤井 猛 『四間飛車の急所 1』
中田 功 『コーヤン流三間飛車の極意』全3冊
島 朗 『島ノート 振り飛車編』
2ch囲碁将棋板 『棋譜貼りスレ』の棋譜
棋泉 『同一局面検索機能』
師匠
他、どこで読んだかわからないものなど・・・