まさか振りなおさない向かい飛車であれだけ文章量が多いとは思わなかった。
あまり重いページもどうかと思い、振りなおす向かい飛車は別ページを設けた。
飛車を振りなおす戦い方は、手損が確実であるため、先手で採用されることが多い。先手で採用すれば、一手損だと後手になるだけだからである。端を打診したりなんかして自ら後手番になるような戦い方はよくある話なので、振りなおすのもあまり抵抗感はない。
居飛車側としては、そもそも▲2五歩を決めなければ相手は向かい飛車にならない。
※ ▲7六歩△3四歩▲2六歩△5四歩▲5六歩△3三角▲4八銀△2二飛 と言う、角道を止めない向かい飛車もある。
しかし実戦的には、▲7七角と上がる前に▲2五歩は決めることが多い。急戦の含みを見せるためだ。
それを狙い、一手損を甘受しても向かい飛車に振り直すという手段がある。
振り直す瞬間は様々だが、大きく分けて、▲9八香の前に振りなおすか、▲9八香を見て振りなおすかに分かれる。
▲9八香の前に振りなおす場合は、居飛車は警戒して左美濃にすることが出来る。しかも一手得。
▲9八香を見て振りなおす場合は、「堅めきっていない穴熊」を持って戦うことになる。穴熊に潜ってはいるが、離れ駒が多いのが難点だ。
▲9八香の前に振りなおすのは、前項のえばぁの見解 居飛車穴熊対向かい飛車基本図で一手得していることになる。そこから左美濃にするか、前回解説したように▲7八金から穴熊模様にするかは居飛車の自由だ。
なのでここでは、▲9八香を見て振りなおす形を紹介する。居飛車側の対抗策としては、▲9八香のタイミングを遅くして対応する順を解説する。
この振りなおす戦い方は、四間飛車、三間飛車、中飛車のどれからでも採用できる。
もちろんそれぞれ基本図も違っているので、別々に見ていく。
A1図 |
初手から ポイントは、▲9八香の瞬間に振り直すため振り飛車が一手待つこと。本譜では△9四歩としたが、△1四歩にも鋭い狙いがある。 |
A1.5図 |
○ 何気ない△1四歩の狙い 実はA1図で△9四歩を△1四歩に代えると、別な順が生まれる。
△9四歩を△1四歩に変えたA1図から |
△9四歩と△1四歩なら、△9四歩のほうが玉が広くなるので得な気はするが、△1四歩は△1三桂の余地を作った攻撃的な手なのである。
これに関連した手が2筋交換後の△2三飛。△2二飛型だと、手順中△2五桂に▲4五桂と跳ね違いして居飛車がよい。本譜で△2五桂に▲4五桂と跳ね違えても、△同歩で3三に飛車が利いているためなんともなくなってしまう。
A1.5図まで進むと居飛車は離れ駒が多く、振り飛車は二枚飛車が見込め、居飛車苦しい形勢だ。
参考図 |
これを防ぐなら、△1四歩に▲1六歩と受け、△2二飛▲7八銀(▲7八金でも構わない)△3二金▲3六歩と進めるのが無難だ。 何気ない△1四歩だが、相手が向かい飛車の場合は△1三桂と言う手がよくあるのでご注意されたし。 |
さて、A1図では▲7八銀もあるが、振りなおさない向かい飛車と似ているので割愛。
例えばA1図から▲7八銀△3二金▲3六歩となると、せっかくの手得で指した手が、得かどうかわからない▲9八香と言うことになるのも気に食わない。(実戦ではそう指したくなるとは思うが。)
ここは初志貫徹▲9九玉と入る順を研究する。
しかし、どうも△2四同角が曲者だ。
A2図 |
A1図から 一直線すぎるとは思うが、こうなって居飛車は指せる気がしない。▲8八銀と閉まってはいるが、離れ駒が多いのが居飛車の難点である。 |
手順中、△2四同角に▲2五歩△4二角▲3六歩△3三桂▲3七桂も、△3五歩▲2六飛△3六歩▲同飛△2五桂で指せる気がしない。
そこで手筋の跳ね違い▲4五桂も、△3七桂成と捨ててから△2九飛成が6九の金に当たっていてはいけない。とにかく離れ駒が一番痛い。
探せばいろいろ変化があるかもしれないが、A1図の時点でなんだかいいようにやられている気がする。
△2四同飛の解説は省略するが、結局離れ駒があるというのは心理的に辛い戦いになる。
なので、▲9八香の前に離れ駒をなくす手段を採ってみる。近年は藤井システムの台頭で、穴熊側も『離れ駒をなくしてから▲9八香』と言うのが有力となっているのだ。
A3図 |
初手から
ここで▲9八香は芳しくなかった。 |
A4図 |
A3図から
ここで振り飛車に問題が生まれる。 振りなおすならA4図が最後だと思う。△6四歩と待つのもあるが、▲8六角が気になる。1筋の突き合いはどちらが得かわからない。 |
一方、△5二金左として振りなおさず戦うのも当然ながらある。これは四間飛車の範疇であるし、しかもどれも一局としか言いようがない。
ここではあくまで△2二飛と振りなおす順を見てみる。
居飛車には、穴熊にこだわらない指し方も必要。▲6六歩と突いた手を生かす指し方がある。
A5図 |
a. △2四歩▲同歩△同飛
A4図から
A5図からは、居飛車に2つの指し方がある。 |
1. ▲9八香
穴熊を目指す▲9八香は、そこで相手が動いてくるかどうかになる。
△4二角なら完全持久戦になり一局。
△5四銀なら、▲1六歩(△1五角の防ぎ)△4五歩▲3七桂△4四角▲4六歩という展開で、終盤▲9八香が響くかどうかと言う勝負。
△4五歩なら、▲1六歩△4四角▲3七桂△3三桂▲4六歩くらいか。
単純に考えれば、▲9八香としても1/3の確率でしか穴熊に入れないことになる。つまり2/3は▲9八香が損になる展開になる理屈である。
2. ▲6五歩
穴熊にこだわらず、今ある陣形で形よく進めるなら▲6五歩だ。
△4二角なら▲9八香から囲って構わないと思う。
問題は△5四銀と△4五歩。これに対してどう戦っていくのか、見ていってみる。
・△5四銀
6五の歩取りはあまり恐れる必要がない。 |
A6図 |
・△4五歩
△4五歩には▲6六銀と上がるのが有力だと思う。代わりに▲2四歩は、△同飛▲同飛△同角▲1一角成△2七飛で振り飛車もまずまずいける形。 |
A7図 |
この筋は、居飛車が左美濃(▲5八金型)だったら▲4八金と寄って十分。そうでないのが悩みである。
えばぁはA7図で▲1六歩と待ちたい。ただ、▲4五桂と一躍し決戦するのも有力だと思う。
△4五歩に▲6六銀と上がらない形もありだろうし、いろいろ手が広い。
A8図 |
b. △2四歩▲同歩△同角
A4図から |
ポイントは△2四同角のところで何を指すかだが、角道を通し位を取る▲6五歩が味よい一手。
これを防ぐため、△2四歩と仕掛ける前に△6四歩としてくるのは、すぐ▲8六角~▲6五歩と標的にして十分と思う。▲6五歩は△4五歩で角が玉を直射して困りそうだが、そこで▲9八玉が▲9八香保留を生かした軽い一手。
と言うわけで本譜だが、左美濃同様離れ駒がないため、なんの躊躇もなく▲2三歩の変化に突っ込める。
A5図からは次に▲4五桂があり、居飛車が指せそうな展開だ。
すると、向かい飛車に残された手段は△2四同角のあと角を引かない展開。
手が広すぎるので割愛するが、居飛車は6筋の位を取って角道を通したあと、▲4六歩から飛車を目標に指す順が有力。
B1図 |
初手から
B1図の▲7八金を▲9八香に変えると、向かい飛車に振り直せば以下△2二飛▲9九玉△3二金▲8八銀△2四歩・・・となる。(参考図・別ウインドウ) |
それを丸写しではなんだか芸がない。と言うことで、四間→向かいでも使った▲7八金と待つ指し方を採用した形を研究してみる。ちなみにB1図で△3五歩と石田流にされたときは、▲8八銀まで閉まったあと、右金の寄せ方を5九~6九~7九と這うようにすればよい。
さてB1図で、「▲9八香としたら△2二飛と振りなおしてやろう」と思っていたところで手を渡された振り飛車は岐路に立たされる。
▲9八香でないとは言え居飛車は穴熊模様であるのに変わりはないので△2二飛と振りなおしてしまうか、
他の手を指して様子を見つつ▲9八香を待つか、である。
B2図 |
1. B1図で即△2二飛
B1図で△2二飛なら、▲3六歩とする。 |
2. あくまでも▲9八香を待つ
B1図から、振り飛車が△9四歩と一手待ってみる。お互い形を決めず手を渡す、ピリピリした序盤である。
居飛車は▲9八香と指すか、あくまで相手に手を決めさせるために▲5九金~▲6八金など右金を引き付けて待つか、悩みどころだ。
振り飛車に手を決めさせるため待つ方針は手が広いので、ここでは▲9八香を中心に見ていく。
B3図 |
B1図から
B3図は、B1図の▲7八金を▲9八香にして進行した図(別ウインドウ)に△9四歩▲7八金の交換を入れた形になる。 |
ここではもう居飛穴に入られてしまっているので玉形の差がひどく、振り飛車が速攻を目指すのは選択しにくい順だと思う。
なので振り飛車は△6二銀と自陣を整備、居飛車は▲5九金と寄る。
振り飛車が△5一金まで入れれば、居飛車は▲6八金上として、駒に連絡のある穴熊になる。この4手の交換の見方は損得いろいろあると思うが、入れた状態で解説したい。
結局向かい飛車は△5四銀か△4五歩のどちらかで動いてくる。
a. △5四銀
B3図から 一直線に進めばこのようになる。▲3七角と引いてから▲7四歩などの狙いがあって、居飛車指しやすいと感じる。 |
B4図 |
b. △4五歩
B3図から
▲3七桂の代わりに▲2四歩と突き出すのは、△同飛▲同飛△同角▲1一角成△2七飛で微妙。 |
B5図 |
B5図から
△3五歩が過激だと思えば、△7七角成▲同金右△3三桂くらい。 |
B6図 |
△2一飛なら、以下▲5六歩△3五歩▲2六飛・・・と言うような進行。
△4九角なら、以下▲5六歩△2七歩▲1八飛△5八角成・・・と言う進行。
どちらも難しいと思うが玉形の差が大きいので、桂香を取って8筋攻めと言う展開になればいずれも勝負形だと思う。
C1図 |
初手から |
中飛車から振り直す形は、四間飛車と似た形になる。
えばぁは対中飛車の解説で、『△4三銀を見たら▲5八金右と上がるのがよい』と解説した。こうすると最初に振る場所が違うだけで、四間飛車から向かい飛車にするのも、中飛車から向かい飛車にするのも一緒である。
C1図は四間飛車から振り直したときのA1図で、△9四歩を△5四歩に変えただけの図だ。
C1図では△5四歩が突いてあるので、△5四銀の揺さぶりがなく居飛車は手を読むのが少し楽である。
振り飛車がこれを防ぐには、中飛車に振っても5筋を突かないで駒組みを進めればよい。そうすると、四間飛車から振りなおそうが中飛車から振りなおそうが同型であるので、四間飛車の項を参照していただきたい。
C1図では穴熊に潜れる(▲9九玉△3二金▲8八銀△2四歩・・・)が、四間飛車のときと同様、離れ駒が多い。
これを避けるには、居飛車側は四間→向かい飛車で解説したような、▲7八金~▲6六歩~▲6七金を先にする指し方をすればよい。
C2図 |
初手から 中飛車がぎりぎりまでがんばるとC2図。手順中、△9四歩には▲9六歩と受けてもいいかもしれない。 |
手番は後手。1筋は突き合うし、△6四歩は▲8六角があるため微妙だ。振り飛車はここでさすがに△2二飛とするかしないか決めないといけない。
△2二飛と振りなおせば、▲6五歩として四間飛車のときの戦い方と似たような形になるので解説は割愛する。
△3二金としてツノ銀中飛車になった場合は、えばぁの見解 居飛車穴熊対中飛車を参考にしていただきたい。
向かい飛車の回は2回に分けるほどとんでもない量だった。
現在居飛穴愛好家となった師匠にも手順研究に協力してもらった。それにしてもずいぶん書いたものである。△3二金型だけでこんなになったのでは、ほかの向かい飛車対居飛穴まで考えたらとんでもない文章量になったと思う。
総合的な対向かい飛車のポイントは以下の4点。
1. ▲9八香の前に▲7八金が有力。離れ駒を無くす意味がある。 |
4は、これを言ったら元も子もないが、実情はこんなもんであると言うことだ。
ただし、1.の▲7八金だけは羽生もやっていた(H16年11月王将戦リーグ▲羽生△谷川)ので、自信を持ってお勧めである(笑) もっとも谷川の△3二銀型で仕掛ける構想も秀逸であった。△3二銀型は△3二金型より2手得なため、美濃囲いにしてから仕掛けるのが容易だ。
向かい飛車を相手にして居飛穴を組みに行くときはかなり神経を使うが、組めないわけではない。
それに向かい飛車自体、序盤の数手で居飛車が▲2五歩としなければほぼありえない戦法なのである。
他の場所から向かい飛車に振り直してくる作戦も、使う人はあまり多くない。言い方は悪いが『こんなので潰れるくらいなら居飛穴は流行っていない』はずである。ここで紹介したような速攻に対して、あんまりびくびくすることはない。
このページを読んで、向かい飛車に対して自信を持ってもらえれば一番いいが、まぁそれは大きく出すぎているので(笑)、何かの指針にでもなってくれればいいなぁと思う。