25th December 2004
前書き | |||
基本図 | |||
鈴木システム(△4四銀型四間飛車) | |||
▲7九金型 | ▲7八金型 | ||
▲6八角型 | ▲5九角型 | ▲9六歩型 | 松尾穴熊 |
浮き飛車(石田流への組み換え) | |||
▲9八香 | ▲3八飛 | ex . 立石流との違い | |
まとめ |
最後は一番メジャーな、居飛車穴熊対四間飛車である。
居飛車穴熊対振り飛車の戦いの中で、もっとも飛車が振られた場所は四間飛車であろう。
それはもともと居飛車穴熊が流行る前の振り飛車も、四間飛車が多かったからと思われる。
大山康晴(十五世名人)が四間飛車を愛用していたことも、四間飛車を増やした理由のひとつと思われる。
そのころは、将棋の序盤自体がのほほんとしたものだった。振り飛車の序盤はなおさらである。
そこに居飛車穴熊が現れ、その堅さで猛威を振るい、振り飛車を駆逐した。四間飛車も例外ではなく、ただ銀冠に組んで対応する無策四間飛車では居飛穴の乱暴に耐えられなかった。
しかし、徐々に振り飛車が穴熊に対して抵抗を始めたとき、先頭に立ったのはまたも四間飛車だった。
四間飛車は振り飛車の中で、角交換をしてもあまり困らない戦法である。
もちろん形によるところもあるが、△4五ポン四間飛車(急戦に対して四間飛車から角交換を挑む戦法)と言う戦法が幅を利かせているほどだ。
この『角交換しても困らない』と言うのが対居飛穴には有効であった。角交換をすると、困るのは駒が偏っていて打ち込みの隙が多い居飛穴だからである。
居飛車は角交換を避けるようになり、居飛穴の堅さは少しではあるが弱体化した。
こんな理由で、四間飛車は振り飛車の中で最も対居飛穴に向いていた。将来性があったのだろう。だから「小林健二(現九段)は振り飛車党に転向したとき四間飛車にしたんだろうなぁ」などとも思う。
以降、四間飛車は『スーパー四間飛車』を経て、従来からは考えられなかった形(居玉)で速攻勝負する『藤井システム』まで発展した。
一方昔ながらの、正面から居飛穴に立ち向かう『鈴木システム(△4四銀型)』、軽い捌きで勝負する『浮き飛車(石田流への組み換え)』も指されている。
藤井システムは別ページを設けて解説することにし、ここでは鈴木システムと浮き飛車に絞って解説する。
基本1図 |
初手から 居飛車は▲5七銀を省略したりする形もあるが、今回は取り上げない。
少し研究したのだが、四間飛車はここで態度を決めるべきだと思う。 |
鈴木システムは中央に厚い形を作るのが大切なので、△5二金左~△6四歩~△6三金の高美濃を組むのが先決であるため、端に手をかけず△5二金左をお勧めする。
一方の浮き飛車は低い陣形で飛車交換を目指す捌き重視の戦法なので、高美濃への進展はあまり考えなくてよく、端に手をかけてよい。
藤井システムが登場し四間飛車の主流となった時代。
対居飛穴に居玉速攻と言う、それまでを考えればあまりの序盤戦術についていけない一部四間飛車党の拠り所となったのが、しっかり囲いに入って正面から居飛穴と戦っていた鈴木大介(現八段)だった。
その戦い方が藤井システムと言う呼称に対応し、『鈴木システム』と呼ばれるようになったのである。
以前は鈴木が穴熊に組ませて戦っていればなんでも鈴木システムだったようだが、徐々に定跡が整備されてきた。ここでは、高美濃囲い(銀冠)+△4四銀型に組んで戦うことを基本とする。
ただ△4四銀型と呼称されるほうが多いかもしれないが、覚えやすいネーミングなので、解説中は「鈴木システム」で通す。
ところで先ほど、「鈴木システムを目指すなら基本1図で△5二金左!」と推奨した。
だがここでは、基本1図で△9四歩としてから鈴木システムを目指す手順を解説しようと思う。
基本1図で△9四歩は、普通にありえる手だ。
実際浮き飛車のほうでは△9四歩を本手としているのだが、鈴木システムでは△5二金左を推奨すると言う。
美濃囲いで玉側の端歩を突くのは、もはや常識である。
終盤寄せ合いになったとき、端歩を突いているのといないのでは、明らかに詰ますまでの金銀の数が違う。突きこしていたりなんかすると、もはやありえない数の金銀が必要な場合も出てくる。
だが鈴木システムにおいては、その「美濃囲いの常識」とも言うべき端歩の△9四歩が、今や緩手になるかもしれないのだ。そういえば『四間飛車の急所1』でも、△9四歩と突かないで駒組みしているのである。
なぜ△9四歩を突かないのかは、△9四歩を突いて駒組みしてみればわかる。
振り飛車美濃囲いの常識が、必ずしも居飛車穴熊対四間飛車の常識ではないことをごらんいただきたい。
A1図 |
基本1図から
▲9八香の前に▲6六歩と角道を止めるのが、現代の居飛車穴熊対四間飛車の基本である。 |
居飛車は穴熊の完成図を▲7九金型にするか、▲7八金型にするかでこの後の指し方が少し違う。
I.▲7九金型
A2図 |
A1図から
A2図の最終手・△7四歩のところで△5五歩なら、▲同歩△同銀▲2四歩△同歩▲3五歩。 |
※ 現在▲5九角型を志向する場合は、手順中の▲6七金を後回しにし、その金を上がる前に角を5九に引くのが定跡手順となっている。▲9六歩+▲5九角型で解説している手順(▲5九角に△5五歩)はこれで回避(△5五歩に▲2六角とし、△5六歩▲同銀△5五歩に▲6七銀と引ける)できる。 ('06.Apr)
A2図から、居飛車は3つ手段がある。この3手段はあとで解説する▲7八金型でも使える。
1. ▲6八角 ・・・ 以下▲1六歩~▲3七桂~▲4六歩の反発。
2. ▲5九角 ・・・ 以下▲2六角~▲4八飛~▲3七桂の集中砲火
3. ▲9六歩 ・・・ 端歩を受けて、終盤の端攻めを緩和する
居飛車が▲7九金型を採用した場合、振り飛車の△9四歩が緩手になる恐れはほとんどない。
だから居飛車は▲7八金型を採用したほうが作戦勝ちが狙えると思うのだが、▲7八金型はパッと見怖い駒組みなので、好み次第である。
1.▲6八角型
a図 |
A2図から
▲6八角型は、鈴木システムの基本的な狙いである△5五歩▲同歩△同銀から△4六歩を無効にする堅実な形だ。 a図からは、『△5五歩としてきたときにどう反発するか』と、『振り飛車の代案』を解説する。 |
※ 居飛車が▲7八金型では、▲1六歩~▲3七桂を先に回すのがよいそうだ。例えばその間に銀冠を作ってきた(△8四歩~△8三銀)場合、▲6八銀と引いて松尾穴熊を志向するらしい。
a図から
b図では振り飛車がどう応じようと居飛車がよい。 |
b図 |
振り飛車の△5五歩はこのように逆用できる(そもそも5筋交換していないと最後の▲5五銀がない)ので恐れる必要はない。
単純に△5五歩では見事に居飛車の反発を食らったので、振り飛車は5筋交換を避け△1四歩と待つ。
a図から 以下の進行は一例。 |
c図 |
c図から △3六歩で桂損だが、▲7五歩と玉頭に手をつける。△7五同歩▲7四歩に△同金なら▲5三銀で食いつける。2四の角が質駒になっているのも大きい。 |
d図 |
ただし△9五歩と突きこしているぶん振り飛車からの端攻めもある。まだまだ難しい局面だ。
2.▲5九角型
a図 |
A2図から
▲2六角には△5三銀と引くのが定跡。
よってa図からは、先に▲4八飛と回る。 |
※ a図から▲9六歩△8四歩の交換が入った局面にし、▲3七桂と言う順が流行っている。▲4八飛と回る気はなく、▲7八飛や▲2四歩~▲3五歩と言う仕掛けを狙っている。
'05年11月NHK杯▲深浦△川上戦では、そこから△1三香に▲7五歩△同歩▲2四歩△同角▲5三角成!と乱暴した。A級▲羽生△久保戦でも現れ、久保は△6二銀と引いたので、羽生は▲7八飛△8三銀▲7五歩から以下飛車を切る猛攻をかけ勝ち。('06.Apr)
a図から
▲4八飛にも△4四角とぶつける。 |
b図 |
鈴木は△2二角と深く引き、▲4六歩に△3三桂と跳ねた。
居飛車は▲1五歩と先に手をつけ、▲7五歩と高美濃の玉頭にも手をつけたが、b図まで進むと▲7五歩は逆用された形ではある。
b図からは▲6八金引△8七銀成▲3八角△8八成銀▲同金△4五飛成と進んだ。居飛車駒得だが、穴熊を荒らされた上に生角2枚が自陣では、まとめづらい形になっている。(結果も鈴木勝ち。)
こうなると▲3七角△2二角には▲2八飛と戻るくらいだが、△3三角となれば千日手くさくなる。居飛車後手なら構わないが、▲5九角型はこんな展開が予想されるので先手では採用しないほうが無難だと思う。
※ 渡辺明『四間飛車破り』でも▲井上△鈴木戦を取り上げてこの形を解説。b図までの手順△7五歩までを取り上げ、そこで▲2六歩でなく▲1四歩と取り込み△4六角▲同飛△同飛▲同角とする順を採っている。そこで後手は△2七飛が有力、先手も▲7四歩があってはっきりはしないとのこと。 ('05.Nov)
3.▲9六歩型
a図 |
A2図から
A2図では▲9六歩と突くのも有力な手段。 結局▲9六歩のあとには▲6八角か▲5九角の選択をしなくてはいけないのだが、振り飛車の気持ち次第で△9五歩と突き越させた上の2つとは違った展開がある。 もちろん同じような流れになる場合もある。ここでは▲9六歩型特有の筋を簡単に取り上げる。 |
a図から 居飛車がA2図から▲9六歩と受けると、四間飛車は端を突きこせない代わりに、上部に手厚い銀冠が作れる。
銀冠は、b図から▲6八角型d図のような進行になったとき、上部に強いため最終手の▲7五歩が効かない。 |
b図 |
※ 居飛車が▲7八金型で▲1六歩~▲3七桂を先に回すと、銀冠を志向した瞬間(△8三銀の瞬間)▲6八銀と松尾穴熊を目指すことが出来るため、振り飛車のこの駒組みは成り立たないようだ。と言うことは、▲7八金型+▲9六歩が優秀と言うことだろうか。
a図から ▲5九角とする前に△7三桂が跳ねてしまっている形だと、▲5九角に△5五歩と突っかける手段がある。
これは、振り飛車が序盤で△9四歩を省略して組んできたときも9筋の突き合いがない形でありうる。 | c図 |
c図から 以下は勢い▲2一飛成△5七桂成▲同金△2二飛▲同竜△同角くらい。「島ノート」の手順だが、穴熊も▲7九金型なのでちょっとは持ちこたえられると思う。 しかし美濃囲いも桂馬が跳ねたとは言え金銀4枚の手厚い構えで、△6六歩の拠点もかなり大きい。あまり居飛車を持ちたくない形だ。 |
d図 |
この形を避けるには、「△7三桂と跳ねてあったら▲5九角とは引かない」ことしかない。
しかしこの形を避けたとしても、あとで△4四角のぶつけ(2.▲5九角型参照)が待っているので、▲5九角と引くこと自体が難しいのが現状。
※ 今では、▲2六角型を志向する場合は▲6七金と上がる前に角を引くのが定跡となっているようだ。 ('05.Nov)
II.▲7八金型
A3図 |
A1図から
A2図の▲7九金を▲7八金に代えたのがA3図である。 |
▲7八金型は前述した▲7九金型に比べて、
○ 上部に厚い。(▲6七金にひもが付き、6七に駒を打ち込む筋がない)
× ▲7八金自体が浮いている。
戦い方は▲7九金型と同じようにも進めることができる。その戦い方は前述の▲7九金型を参照していただきたい。
(▲7八金が浮いていることが致命的になる場合もあるのでご注意)
ここでは、ひとつだけ▲7八金型特有の戦術があるのでそれを解説したい。その戦い方が、居飛車穴熊対四間飛車の最新形である。
そしてこれこそが、『△9四歩って緩手じゃない?』とえばぁに思わせた形である。
A4図 |
A2図から
▲6八銀と引くのが、次に▲7九銀右と引いて松尾穴熊を完成させる手だ。
なので、A4図で振り飛車は動かないといけないのである。 |
1. △5五歩 ・・・ 5筋が薄くなったところを狙う
2. △5三銀 ・・・ 4六の受けがなくなったので飛車の捌きを狙う
1.△5五歩の変化
a図 |
A4図から
a図で△9四歩が△7三桂に代わっている(後述α図)と▲6五歩を△同桂と取れるが、今回は桂馬が跳ねていない。 |
△7三桂が入っている形でも形勢は不明なのに、入っていないこの図でどうして形勢が好転しようか、と言うのが「△9四歩は緩手」と主張する根拠である。
a図以下は、△6五同歩▲3三角成△同桂▲2四飛△4五桂▲6四歩△7三金▲2三飛成△6六歩▲同金△5七桂成▲7七銀が一例。
変化は多いと思うが、▲6四歩の利かしどころがポイントになると思う。
b図 |
a図までの手順中、▲5六歩ではなく▲3五歩とする順もある。
A4図から b図からは4四の角を追って▲2二飛成を狙う展開(後述β図)。 |
ここでもすぐの△8五桂がないので振り飛車の反発は弱い。その代わり桂を跳ねていないぶん高美濃が堅い。
△7三桂を跳ねていない点を咎める意味で、a図のほうが個人的には好みだ。
△9四歩が△7三桂に代わっていれば、振り飛車の反発が強くなる。
参考として掲げる。
△9四歩を△7三桂に代えたA4図から 一度説明したように、▲6五歩を△同桂と取れるのが△7三桂を急いだ振り飛車の自慢。α図はまるで横歩取り△8五飛のように中央へ二枚桂が跳ね出して、居飛車陣に襲い掛かっている。 |
α図 |
こういう展開は居飛車も怖く、手元には▲3五歩(次項)しか実戦例がない。
△9四歩を△7三桂に代えたA4図から ▲3五歩の進行は△2二歩と振り飛車が堪えてどうかというところ。とにかく角をどかさないと飛車が成れないので、β図からは▲4五歩△同飛▲5六歩(△4六銀なら▲6五歩)、または▲2五飛と引き、次に▲4五歩を打って角をどかすなど。 |
β図 |
ただし振り飛車の△8五桂がすぐ跳んでくるのでまだまだ難しい。
2.△5三銀の変化
a図 |
A4図から
△5三銀は、△5五歩では自陣も薄いと見た場合に採る手段だ。飛車を捌きに行く手なので味よく見えるが、軽すぎると言う面もある。 |
この最終手▲6五歩は振り飛車が△7三桂と跳ねていると△6五同桂と取られるが、今はその心配がないのでどうか・・・と言うところ。
a図からは△7七角成か△4六歩か。以下は一例。
振り飛車の△4六歩、居飛車の▲6四歩のタイミングと是非が悩ましい。
1. △7七角成 ▲同金寄 △4六歩 ▲同歩 △同飛 ▲2四飛 (参考図)
2. △4六歩 ▲3三角成 △同桂 ▲4六歩 △同飛 ▲2四飛 (参考図)
結局、今回も振り飛車には△7三桂と跳ねていない反発力の弱さがある。
では△9四歩は緩手か・・・と思いきや、▲6八銀に△5三銀を選ばれると実戦的にはどうもはっきりしない。懐が広い上に銀が美濃囲いにくっついて堅くなっているからで、受けに回られると攻めあぐねてしまいそうである。
ただし振り飛車のほうも、気を遣う将棋になる。受けに回るということは、自分の読んでないいい手があったら一発で終わるからだ。双方難しい局面と思う。
△9三歩・△7三桂型で同じことをやったときの変化はこうなる。
△9四歩を△7三桂に変えたA4図から 居飛車が銀桂交換の駒損だが、先に飛車を捌いている。双方玉も堅いため、まだまだわからない将棋だ。 |
α図 |
再掲基本1図 |
鈴木システムの一方で、同じく居玉速攻の藤井システムに親しみを覚えられない四間飛車党に採用されることが多いのが、この『浮き飛車戦法』である。 鈴木システムはお互いがっちり囲い、縦から攻撃を仕掛けていく戦法だが、浮き飛車は石田流に組み替え、振り飛車らしい軽い捌きを駆使して穴熊の側面から攻撃していく戦法だ。 |
B1図 |
基本1図から
穴熊に組む前に角道を止めてしまうのが今の常識。対する浮き飛車は△4五歩~△3五歩の順で歩を突く。 |
振り飛車の狙いはB1図から△4四飛~△3四飛。
この明らかな狙いに対して、居飛車は2通りの対処がある。
1. ▲9八香 ・・・ 「お互い組みたい形に組もう」と穴熊を目指す
2. ▲3八飛 ・・・ 「石田流になんか組ませるか」と動く
結論を言ってしまえば、▲9八香からの穴熊は居飛車指しづらくなる。
△3五歩を狙って▲3八飛が対浮き飛車最強の手なのだが、まず「なぜ▲9八香がだめなのか」と言うことから説明していく。
1.▲9八香
a図 |
B1図から
▲9八香と指せばもはや一直線。 |
a図からは、次に△3八歩(▲同飛なら△2五飛なので取れない)と垂らされても面倒だし、△1四歩~△1三桂~△2五飛もほぼ受からない。
飛車交換をすれば振り飛車陣には打ち込みの隙が全くないのに対し、居飛車陣はスカスカである。
実際プロでの勝率は浮き飛車がよく、「この展開は居飛車にとってよくない」となり、次に挙げる▲3八飛が出てきた。
2.▲3八飛
a図 |
B1図から
a図までの注意点は以下。 |
a図から振り飛車は、向かい飛車から動く△2二飛か、あくまで石田流を目指す△3二飛。
a図から
b図は角交換をしてもしなくても振り飛車が動きづらい。 |
a図から
振り飛車は△3二飛から△1二香と上がって角筋を避ける。 |
c図 |
▲9八香△4二角▲2六飛は、△1五角▲1六飛△1四歩で難しい。
▲6五歩は、△3六歩▲同歩△7七角成▲同桂△3六飛▲3七歩△3五飛(次に△3三桂)でどうか。
▲2六飛と浮くため、▲1六歩と突いてから穴熊に行ってみるとd図になる。
c図から d図からは▲6五歩~▲6八銀か、単に▲6八銀。どちらでも一局の将棋だと思う。 |
d図 |
恥ずかしながら、えばぁはこの間くらいまで浮き飛車と立石流を混同していた。
「どっちも最終目的は石田流なんだから」というのがその理由だったのだが、本当は全然違う戦法である。
ex1図 |
初手から
ex1図の後手が立石流。 |
このex1図とB1図を比べてもらえばよくわかると思うが、浮き飛車戦法は「四間飛車が”居飛車穴熊に対して”使う戦法のひとつ」である。
だが立石流は「四間飛車が、居飛車を自分の形に引きずり込む戦法」である。変態四間飛車なのだ。
ex2図 |
ex1図から
えばぁもかつて石田流使いだったときがあり、その派生形である立石流も使っていたことがあった。「いい戦法だな~」と思いながら使い、実際の戦績もよかった。 |
交換した角を5七に打って歩取り。定跡書なんて買ったこともなかった当時のえばぁにこんな意地悪をしたのは、めいじんである。
それまでこんな角を打たれたことはなく、なのに受けにくくて、わけがわからなくなった精神的ダメージと元々の圧倒的な棋力差もありえばぁは惨敗した。
▲5七角は、△4四飛なら▲3五角と一歩取ってしまうと言うあからさまな手である。一歩損が嫌なら△4四角しかないが、▲7七銀と受けられたあと目指している石田流にできない。
「そもそも△3四飛型を阻止してしまおう」と言うのがこの▲5七角の意味なのである。
この角打ちをまた食らうのはごめんなので、えばぁはその日限りで立石流を辞めた。ちょっと忘れかけたころ、『これが最前線だ!』を買ってex2図を発見。号泣したのは言うまでもない。
実を言うと、△9四歩を突いた形が両方ベストだと思って初めは書いていた。
居飛車としたら、どっちをやってくるかわからないのが一番対策を立てにくいと思ったからだ。
えばぁは一応振り飛車党の人間である。あの歩は美濃囲いを作ったあと、絶対に突くものだと思っている。絶対に損にならないものだと思っていた。
ところが、松尾穴熊でつまずいたのである。なんかおかしいぞ、と。
そう思いながら「四間飛車の急所」を見返すと、端歩を突いていない。
1年経ってんのに今更気づいたのかと言われれば言い返せないが、あまり気にも留めなかったのである。「どうせあとで突くんだし」と思って。
ところが、先に突くのとあとで突くのでは大違いだった。なんだかガツンと殴られたような気分で、『△9四歩は緩手かもよ~』と言う論調に文章を変えた。
書いているうちに思い出したのが、今期のNHK杯▲北浜△藤井戦。
と言ってもあの将棋は後手の藤井システム(途中で浮き飛車▲3八飛のc図みたいになったが)。思い出したのは、その将棋の解説者だった鈴木システム本家・鈴木大介の言葉である。
「居飛車は端を突き越されたほうが、むしろ穴熊に入りやすい」
えばぁはこれを、『藤井システムだけ』の話だと思っていた。
専門的な話になるが、王位戦第4局で出たように最新の藤井システムは△9五歩より△6四歩を優先する。
ところがこれは見当違いで、鈴木システムも松尾穴熊を警戒し、端歩に気を遣わなくてはいけなかったのだ。
しかもひとつ突いても微妙なのである。藤井が『四間飛車の急所1』で「居飛車穴熊は矢倉化するか」と言うサブタイトルをつけていたが、今見直すと更に納得のいくサブタイトルだ。
そう思いながら書いていたら、今回の解説は『四間飛車の急所1』の補完をするような内容になった。
そのうち(当分先?)『四間飛車の急所』も居飛車穴熊編が出るのである。えばぁがどんな最新の内容を書いたって、かないっこないのだ。勘弁願いたい。
居飛穴対四間はどんどん細かくなっていく。
しかしこれは、あくまでも「実戦で考えるときのベース」である。米長がNHK人間講座で言っていたように、手渡しや手順の妙を駆使した「アナログの中盤」が人間の腕の見せ所なのだ。
うろ覚えの知識で「Aの手だったかな、Bの手だったかな」などと定跡にがんじがらめにされたようにウンウン悩まず、自分の読みと感覚を信じて指すのがいいと、研究ばっかりして逆転負けばかりのえばぁは思う。
やっぱり将棋は中盤・終盤だ。
参考文献
藤井 猛 『四間飛車の急所 1』
島 朗 『島ノート 振り飛車編』
深浦康市 『これが最前線だ!』
渡辺 明 『四間飛車破り』