29th October 2004
(補足 : 28th December 2005)
前書き | |
対三間飛車・居飛穴基本図 | |
対コーヤン流 | 対石田流 |
まとめ |
振り飛車だけで4つもあるので、2部作にすることにした。
そうすると、更に読みづらくなったので結局各振り飛車ずつ、4つ作ることにした。
最初は居飛穴対三間飛車、中飛車を取り上げる。居飛穴対四間飛車は実戦例が最も多く、一番研究されているところなので、えばぁのサイトのみならずいろんなところに書いてあるし、後回しにする。
居飛穴対三間飛車、中飛車と言う戦型は、本当につい最近までほったらかしにされていた戦型だった。どちらも「居飛穴有利」と言うイメージが強く、三間飛車や中飛車に愛着を持っている人でない限り、研究の対象にしなかったのだ。
しかし、これまであまりに四間飛車が指されすぎた影響か、徐々に三間飛車と中飛車の見直しが始まった。「東大将棋ブックス」が四間飛車道場を出し終わったために、続いて三間飛車道場、中飛車道場と出し始めたのもそれに拍車をかけ、アマチュアでは三間飛車ブーム、中飛車ブームが起こっている。
そんな振り飛車ブームの中、振り飛車党が居飛穴を目の敵にする割に、当の居飛穴は大して危機感を覚えていないように思えた。「四間飛車と同じように指せばいいでしょ、穴熊だし」みたいな雰囲気がある。
四間飛車の教祖・藤井の天敵である佐藤康光(現棋聖)著の『最強居飛車穴熊マニュアル』は、対四間飛車(組ませて指すのと、藤井システム)と相穴だけである。相手が三間飛車にしてきたら、中飛車にしてきたらどうすんのか。マニュアルもくそもないではないか。
ともかく、三間飛車党や中飛車党(この人たちはそうでもないかも)が相当居飛穴を意識してる割に、肝心の居飛穴党の態度はかなりそっけない。
「対四間飛車と同じように組めばそれなりだ」と思っている。これはとんでもない侮辱である。
今回えばぁが居飛穴側を持って真摯に三間飛車、中飛車と戦うことにしたのは、こんな理由もあるのだった。居飛穴に真摯に対応されると困るのは自分(振り飛車党)なのだが、それが「最新の戦い」なのである。ミーハーなえばぁはこんなのが大好きだ。
なんか最初と言ってることが違ってきている。まぁ、・・・前書きはこの辺にして、本編に入ることにする。
まずは前回提示した、対三間飛車で居飛穴を組もうとする際、有効な始動の構えはどういうものかというのをおさらいする。
(1) ▲7七角型 |
(1)▲7七角型。この形が有力だと書いた。 |
(ex) 5筋不突き▲7七角型 |
5筋を突かないで▲7七角と上がる。 |
と言うわけで方針転換し、居飛穴は(ex)型を基本図に組み込んで戦うことにする。
基本図 |
初手から ここまでの手順での注意点は、△3二飛と三間飛車になったときにすぐ▲2五歩 △3三角の交換を入れること。入れないと△3五歩からすんなり石田流本組に組まれる。もちろん、わざと本組に組ませて棒金で押さえ込むと言う戦略もあるので、好みによって選んでいただきたい。 |
前述した「三間飛車が玉頭銀風に・・・」と言うのは、基本図から△4三銀▲8八玉△5四銀▲9八香△6五銀▲2六飛と言うような手順で受かる。
さて、居飛穴に対して、三間飛車の有力策は今のところ2つ。 |
現在の三間飛車ブームの火付け役が、純粋三間飛車党・中田功七段である。その彼の愛称「コーヤン」が、この戦法名に定着した。
コーヤン流の原型は「真部流」と言う形である。真部流の戦い方は中央制圧に重点を置いている。
中田はその真部流に、長い居飛穴対振り飛車との戦いで培われた端攻めの思想を加え、より攻撃的に仕上げたものがコーヤン流である。別の言い方として「中田XP」とも呼ばれる。
しかし何しろ指しているのがほとんど中田1人なので、参考に出来る文献も中田本人の著書、参考に出来る棋譜も中田の実戦くらいであり、定跡の整備は遅れている。
ある程度の紹介をしたが、基本図からして、プロでもまだ試行錯誤と言える。あくまで「有力なんだなぁ」くらいで見ていって欲しい。
A1図 |
基本図から この引き角作戦がコーヤン流対策としては優秀な形である。駒組みのポイントは以下に記す。 |
ポイントは3つある。
・△6四歩と突くのを見て▲5六歩と突く。(居飛穴)
・くれぐれも▲5七銀と上がらず▲6八角と引く。(居飛穴)
・△8二玉と上がらない。(三間) |
前回分類した形の(2)や(4)のような、▲5七銀と上がっている形だと、▲6八角の利きを銀が邪魔してすぐの▲2四歩を見せる手にならない。
また、△7三桂と跳ねた手がいつも角銀両取りを見せた先手になってしまう。
右金も4九のままで待機していたことがよく働いている。
もし上の図で▲5八金右と上がっている形だと、▲6八角が金の移動を邪魔している。他の駒に囲まれているが、実は紐もついていない浮き駒である。
後々角を引くことを想定し、5筋の歩も省略し▲5七銀と▲5八金右を入れない形から穴熊完成を急ぐのがコーヤン流には効果的である。
▲6八角と引いて2筋に照準をつけた上図から、三間飛車は△9五歩、△7三桂、△4五歩が有力と思う。
1.端攻めを狙う△9五歩、△7三桂
△9五歩なら次に△7三桂、△7三桂なら次に△9五歩を指さないとすぐには端攻めが出来ない。端に手をかけているうちに中央で遅れてしまう恐れもある。居飛車の指し方は3つほどある。
1. ▲5七銀~▲4六銀 斜め棒銀式。
2. ▲2四歩 △同歩 ▲3五歩 速攻。
3. ▲5九金~▲6九金~▲7八金 じっくり玉を固める。
A2図 |
1の▲5七銀~▲4六銀を一例に進める。
A1図から
▲3七桂で△4五歩の反発を防ぐのが良い。 |
2.角道を通す△4五歩
△4五歩には▲3七桂と跳ねて△4二飛を強制する。その代わり居飛車からの▲3五歩がしづらくなるという点はある。△4二飛のあとは以下の順が考えられる。
1. ▲5七銀~▲4六歩
伸ばした4筋に反発する。穴熊に潜っているのは大きな主張点。先後は違うが、森内がNHKで使った手。端攻めが間に合わないので、中央での戦いになる。
2. ▲5九金~▲6九金~▲7八金
穴熊を固める。その後は上の仕掛けを敢行する。先後は違うが、王位戦リーグで羽生が使った手。
A3図 |
1の▲5七銀~▲4六歩を一例に進める。
A1図から
これはすぐ仕掛けた手だが、▲5七銀からが手広い。コーヤン流が後手番ということもあり、指したい手がいろいろありすぎて大変だ。 |
ex. 最新?(組み合う形)
a図 |
基本図から '05年末、コーヤン流はa図の形が最新形と思う。△6五歩は4枚穴熊を防ぎつつ、▲4六歩△同歩▲同銀には△6六歩を用意した手だと思われる。突かないのも一局。 |
△4五歩▲3七桂△4二飛の3手を入れるタイミングはどちらにとっても微妙と思う。振り飛車にとっては、入れない間に▲5七銀~▲4六銀~▲3七桂とされると角道が通しづらくなり、それはそれで一局の将棋であるものの、コーヤン流のメインである端攻めがしづらくなるのがここまでの駒組みからすると不満だろうか。
b図 |
a図から
金の上がり方は△6六歩を警戒してか、▲7八金が多い。お互い組み合えばb図のような進行になると思われる。玉頭戦をするつもりなのに△6三金が入っていないのが振り飛車の難点(先手番なら入る)。 |
b図の実戦例はない。先後を換えて振り飛車に△6三金が入り居飛車が▲7九金寄と寄っていない実戦がある。H17年7月▲中田功△渡辺(順位戦)だ。
b図に△6三金を入れ、7九の金を6九に戻した局面から 金を寄せずに仕掛けたのは、寄ると▲2五桂から先攻されるのが気に入らなかったとブログでは語られている。 c図からは▲4五桂△4四角▲2四飛△3三桂▲5三桂不成△同角▲2一飛成△8四桂▲4三歩△同飛▲5二銀と進み、d図。 |
c図 |
d図では△9六桂▲同香△9八歩▲同玉△9七歩▲同桂△9六香と行きたいが、7九の地点が空いているため、▲4三銀成△9七桂成▲8九玉で詰まず居飛車勝ちとのこと。 ▲6九金型で戦うのはH17年6月▲木村△中田功(NHK杯)でもあった。終盤にまで効いたこの渡辺戦はうまく出来すぎとしても、居飛車は△8五桂と飛ばれる前に仕掛けたいという気持ちがあるようだ。 |
d図 |
個人的には▲6八角と引いたあとはすぐ仕掛けるのがいいと思う。
コーヤン流の狙いである端攻めがないうちに戦いにできると言う心理的アドバンテージは大きい。
穴熊も2枚なのですごく堅いわけではないし、相手を一気に潰すこともできないが、美濃囲いよりは明らかに堅いという実戦的な感じからも、えばぁは▲6八角から即仕掛けるのを支持したい。
基本図(再掲) |
ここまではコーヤン流の解説をしてきたが、原型となった真部流の形も解説してみたい。 |
ex1図 |
基本図から コーヤン流は△7一玉型で戦うが、真部流は玉を美濃囲いに入城する。ex1図から真部流が目指すのは、△6五歩~△6四銀と盛り上がる陣形である。 |
しかしex1図は、居飛車にとって作戦の分岐点である。
ひとつは▲6八角~▲6六銀~▲5九金からの4枚穴熊。
もうひとつは、▲4六銀~▲3五歩の斜め棒銀だ。
▲6八角~▲6六銀の4枚穴熊の順は自然に見えるのだが、実は真部流が想定している形である。
ex1図から
▲6八角 △7三桂 ▲6六銀 △6五歩
▲7七銀 △6四銀 ▲5九金 △9四歩
▲6九金 △9五歩 ▲7八金 △5五歩
薄くなった5筋から動かれてしまう。▲同歩なら△6五歩と、次の△5五角を見られて大きく捌かれる。
なのでこのex1図からは、▲4六銀~▲3五歩が有力だ。
△6五歩~△6四銀と盛り上がりたい真部流に対して、盛り上がる前に仕掛けるのはひとつの手段であるし、角頭が薄いところに目をつけるのも理にかなっている。
この仕掛けが優秀で、真部流はあまり指されなくなった。
石田流は長らく指され続けている三間飛車の形だ。
だが、今回紹介する石田流は△3四歩~△3五歩の出だしではないため、よくある石田流本組という形にはならない。
基本図から△7二玉~△4三銀と上がり、△3五歩と突いてから囲いのほう(5一か4二)へ角を引く形になる。この指し方は、プロでは小倉久史七段が多く採用している。今回は小倉が採用している指し方を中心に見ていく。
また▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △3五歩の早石田型から石田流本組に組む戦い方は、後日、別ページを設けて解説する。
B1図 |
基本図から
小倉の実戦では△5一角が多く見られるが、ここを△4二角と引く手もある。 |
さて、B1図で真っ先に見えるのが次の△3六歩。しかしこの手は怖くない。あくまでも穏便に進めるなら▲2六飛だが、ここは穴熊を組みにいった方針を貫く▲8八銀が成立する。
B1図から
▲8八銀 △3六歩 ▲同歩 △同飛
▲2四歩 △同歩(同角) ▲2二歩 △3三桂
▲2一歩成
(振り飛車失敗)
香得確実である。穴熊に潜っている居飛車と、美濃囲いができていない振り飛車の玉形差も大きい。
特筆すべきは5筋不突きが利点になっていることである。B1図で▲5六歩△8二玉▲5七銀△7二銀の交換が入っていると、手順中の▲2四歩を△同角と取った手が5七の銀に当たってしまうのでいけない。
こんな手があるので△3六歩は成立しない。よって▲8八銀には△3四飛と浮くことになる。
B2図 |
B1図から 手順中▲5六歩~▲5七銀を▲4六歩~▲4七銀とする構想も考えられる。その場合は▲3六歩△同歩▲同銀と言う指し方がある。好みで使い分けたい。 |
△5一角型ではここから大きく2つに分かれる。
1. △6二角
2. △7四歩
△6二角は▲2六飛に狙いをつける手であるが、4筋突いて、5筋突いて・・・と、角が働くまで手がかかるのが難点。一瞬であるが角が窮屈になる形なので、知らないと上がりづらい角だと思う。
△7四歩は、その後△7三角と据える。そして△3六歩 ▲同飛 △同飛 ▲同歩 △1九角成が狙い。こうやって香を取れれば石田流有利である。
1.△6二角
B3図 |
B2図から
△6二角には▲6九金右~▲7八金右と穴熊を完成させる。 |
この戦型は、居飛車が出来るだけ多く歩を駒台に乗せるのが急所(▲6八角から▲3六歩△同歩▲3五歩の筋など)。そのため早々と歩を換えられる展開は石田流にとって不満なので、△5四歩は後回しなのである。
もしB1図・△5一角のところで△4二角~△5三角とすると、5筋を突かないと△5三角と据えられない。しかし5筋を突くと▲6六銀~▲5五歩の筋がある。しかも△5三角は居飛車が狙ってくる5筋に自分から近づいていっているのが不安だ。
羽生の頭脳には△4二角~△5三角(先手番解説なので▲6八角~▲5七角)と据える順が書いてあるが、角を深く引く順はこれを改良したものと思う。
▲6六銀~▲5五歩の手順のほかには、銀冠穴熊に組み替える手順もある。B3図がそれ。
石田流が角を捌くために△4五歩と突くと、7七の角が3三の桂を直射する。このまま△3六歩からの飛車交換を決行しては▲3三角成が先手として残るので、△4四銀と上がることになる。これはこれで一局だ。
2. △7四歩
B4図 |
B2図から △7四歩は、次に△7三角と据え、△3六歩▲同飛△同飛▲同歩から▲1九角成の香取りが狙い。 |
△7四歩に居飛車は▲1六歩と突く。△7三角には▲1七香で、目標になっている香をかわす。この手順は部分的な定跡で、振り飛車が△4二角~△6四角と据えてくる場合も応用が利く。要は、△6四角と出たときに▲1七香と上がれればいいのである。
香を逃げられても△3六歩から角成を決行してくる場合もあるが、▲6八角~▲4六角とぶつけて馬を消せばよい。その後桂香を取り合う形になるのは穴熊の望むところになる。堅さは明らかに上だからだ。
B4図は後手が銀冠に組む一例になる。
居飛穴に対する三間飛車の動き方は以上の2つが有力だ。
コーヤン流の主な狙いは端攻めにある。
しかし居玉の藤井システムとは違い、玉を7一まで持っていくので手数がかかり、穴熊に組めないことはない。問題は組んだあとの戦いにある。
えばぁは金銀2枚での穴熊が完成したら、▲6八角からすぐ仕掛けるほうが良いと思う。これはえばぁが攻め将棋だからそう思うのであって、もちろんじっくり受けて立つのも有力だ。
石田流の主な狙いは飛車交換からの大捌きだ。
これも穴熊に組めないことはなく、実戦的な面での穴熊の堅さはしっかり見ることが出来る。不安なのは駒組み中に動かれることであるが、解説した▲2四歩~▲2二歩の筋で対抗できるので、心配なく▲9九玉と潜っていただきたい。
また、単純な大駒交換では、損をするのは石田流である。堅さはどう考えても穴熊のほうが上なのだ。そこは自信を持っていただきたい。
よって駒組みが進むにつれ、石田流と聞いて想像するイメージからは程遠い、細かい動きが多くなっていく。
居飛穴側の狙いとしては、『△3六歩と決行せざるを得ない』形に持っていく指し方が良いと思う。このとき目標になる駒はやはり敵飛車。一歩持って▲3六歩△同歩▲3五歩というのはよくある筋である。
三間飛車に対しては居飛穴が最有力と言われる。
しかし四間飛車相手と同じだと思っていると、翻弄されることになる。三間飛車に対してはそれなりの駒組み・指し方があるので、それをわかってもらえればいいなと思う。