藤井システムとは、現代振り飛車の教祖的存在である藤井猛九段が開発した、居玉速攻と言うにわかには信じられない形で居飛車穴熊を攻略する戦法だ。
元々は対左美濃の戦法だったが、あまりの猛威に左美濃が激減し、次は居飛穴を標的としたのである。
藤井はこの藤井システムを駆使し、竜王3期という実績(と立派な家)を築き上げた。
藤井システムは序盤の駒組みが矢倉並みに精緻である。よって先手と後手によって指し方がまったく異なってくると言うシロモノだ。
この細かさが振り飛車党でも意見の分かれるところで、プロでもアマチュアでも好き嫌いが激しい戦法となっている。藤井システムを指す場合、通常の四間飛車の定跡+藤井システムのいろいろな定跡を覚えなくてはいけないのだ。
さて、先手でも後手でも使える戦法は、後手で使えるかどうかが問題になる。
将棋と言うのは、突き詰めれば「先手必勝を証明するゲーム」である。と言うことは、誰もが後手番に困る。
今後手矢倉があまり指されないのも、横歩取りが一時より減少傾向にあるのも、後手の勝率が低いからだ。
そして振り飛車は、元々の認識が『後手番用の戦法』である。
この藤井システムも振り飛車であるがゆえに、「後手番で使えるかどうか」は大問題。
もし後手でも藤井システムが有力なら、先手は居飛車穴熊を避けるようになり、振り飛車(四間飛車)は今よりずっと戦いやすくなる。登場以来、居飛車穴熊は振り飛車の最大の敵であり続けているからだ。
後手藤井システムには、2通りのパターンがある。
△3二銀型と△4三銀型で、前者は現在使用されている形、後者はちょっと前に使用されていた形である。
△3二銀型と言うのは藤井システム当初からの形でもあったが、実戦を重ねる間に△4三銀型へと変化していった。
これは、△4三銀型のほうが居飛車穴熊に対する攻撃力が勝っていたからである。
しかしそこから数々の実戦を経て、△4三銀型は右銀急戦をされると明らかに分が悪いと考えられるようになった。こうして現在では再び△3二銀型に戻ってきたのである。
ここでは△3二銀型を中心に解説するが、△4三銀型も少し触れたいと思う。
藤井システムに対する居飛車の作戦は4つある。
1. 居飛車穴熊 ・・・ 断固穴熊を組みに行く
2. ミレニアム ・・・ 角道を避けつつ堅い玉形を作る
3. 右銀急戦 ・・・ 居玉を咎めて急戦に出る
4. その他 ・・・ 通常の5七銀左急戦や、5筋位取り、玉頭位取りなど
『4.その他』は通常の四間飛車の範疇であるので解説しない。
ミレニアムと右銀急戦に関しては、その形へ持っていくための手順・図のみを掲げるのみとする。詳細な戦い方については、他のサイト・棋書などでご覧ください。
△3二銀型が、今プロの間で指されている藤井システムだ。
しかし一時と比べると採用率は下がりつつあり、本家・藤井の他に指しているのは羽生と久保利明八段くらい。
α1図 |
初手から
最終手の△6四歩は、ちょっと前なら△9五歩と端を突きこしていた。 |
裏を返せば、後手藤井システムはそこまで徹底した駒組みをしないと穴熊を阻止することができなくなって来ていると言うことになる。
α1図はひとつの分岐点。 |
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α2図 |
α1図から
居飛車が▲5七銀と上がれば▲6八角の筋が消えるので、振り飛車も△3二銀と上がることが出来る。こうしてα2図。 |
ここは再び居飛車の作戦の分岐点になる。 プロでの対藤井システム最前線は、2.の▲3六歩△6二玉に▲5五角と出る5五角戦法。トッププロの実戦例が多い。 |
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α3図 |
α2図から
α2図で▲7七角と上がれば、居飛車は穴熊を目指すもの。(工夫の余地はあるが便宜上) |
ここからは2つに分けて解説する。 |
1図 |
α3図から
振り飛車に8筋を取り込ませる代わりに、居飛車は穴熊に潜る。この順がプロ間では△9五歩型への決定版になっているようだ。 |
1図から
△4六歩~△4五歩は、△8五飛と回る筋を見せた手。 |
2図 |
しかし△6六歩を▲同銀と取り、△4五飛に▲4八歩(2図)が筋悪く見えて受けの好手。ここで後手が△5四銀と一手ためたため、先手は▲8七歩とキズを消し穴熊が安定した。
実戦はこの後森下が▲3六歩~▲3七桂から飛車を追い、そのまま押さえ込んで大差となった。
2図では△5四銀に代えて△8七歩▲同銀△4七歩▲5五銀△4八歩成▲4六歩△同飛・・・と言う順もあったようだが、3手目の△4七歩があまりに筋悪なため見送ったという。
これ以後、羽生が後手を持って負けたというインパクトもあるのか、△9五歩と突きこした形は現れなくなった。
※ と書いたとたん、2/1のA級8回戦▲丸山△藤井で藤井はα1図で△9五歩と突きこした。以下▲7七角に△7四歩。丸山は▲3六歩△6二玉と別な変化に持ち込んだため、一直線に穴熊に進んだときの戦いは不明。
△9五歩がだめとなると、振り飛車は代案を考えるしかなくなる。
しかし、すぐ△8五桂は▲6八角△6五歩▲9八玉で切れそうだ。
えばぁが思いつくのは、△4三銀か△7五歩。
a.) △4三銀
1図 |
△4三銀は、▲9八香を待つ意味で上がる。
α3図から |
1図に△9五歩を入れて先後ひっくり返せばそのまま先手藤井システム対居飛穴なので、詳しい解説は先手藤井システムのページで解説する。
端攻めが入るなど、△9五歩の一手が大きいかどうかが問題だ。
この後の参考手順としては、△5四銀左▲8六角△6五歩▲8七歩・・・といった感じ。
b.) △7五歩
2図 |
α3図から
あくまでも勝手読みなため怪しい変化だが、仕掛けるならこれくらいにしか思えなかった。 |
α3図自体がプロでは現れていないと思われる局面。よくわからないのが本音だ。
△4三銀型藤井システムは、2000年~2003年初めに流行した形。
△3二銀型より攻撃力に富んでいるため(β3図を参照)、居飛車はより穴熊にしづらくなったため、ここでは紹介しないが様々な対抗策が研究された。
△4三銀型が現在プロの実戦にほとんど現れないのは、居飛車の右銀急戦が非常に有力であるということがわかったからである。
ここでは全て紹介にとどめる。
β1図 |
初手から 居飛車の駒組みは特に変わりない。大きく違うのは戦いになるそのときである。 |
もちろんここでの分岐も同じ。 |
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β2図 |
β1図から △4三銀型の急所はこの図で、右銀急戦を仕掛けるのが最有力策となっている。 |
居飛車の作戦は同じ。
2.の▲3六歩△6二玉▲3五歩が△4三銀型藤井システムを消滅させた順。いくつか新手も出ているが、先手有利を覆す決定打とはなっていない。 |
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β3図 |
β2図から
手順中の△6二飛が、△5二金左を保留していた△4三銀型特有の一手。 |
ところがβ2図で説明したように、△4三銀型に対しては右銀急戦が急所となっているため、今ではβ3図は現れない形になっている。 |
1図 |
β3図から
β3図でわかるように、もはや後手は振り飛車の原形をとどめていない。どちらかと言うと『雁木』のような駒組み。 ▲3六歩のところでは▲6八角や▲9八香もあるが、やや危険な感じ。 |
1図から
後手陣はまさに雁木囲い。 振り飛車は△4五歩となかなか突かないのだが、どこかで早めに突いた場合は▲3六歩~▲3七桂から3三の角を目標にして戦う。 |
2図 |
藤井システムは日々進化している。
しかも居飛車にはもっといろいろな工夫・変化が存在する。(例えば、5筋を突かなかったり)
ここで解説しているのは幹と大きな枝だけで、小さな枝に踏み込むと、それこそ藤井の頭の中にしか存在しない。
藤井システム使いから見る、藤井システムで一番嫌な形はやはり急戦だ。
穴熊調の勝負になれば、一応玉頭での戦いになるため藤井システムの顔が立つ。
しかし急戦は藤井システムの居玉自体を咎めてくる右翼での戦いで、玉頭戦にならない。玉が戦場に近いのもマイナス要因で、あまり戦いたくない相手である。
居飛車の目で見ると、作戦は性格と棋力で使い分けるのが良いと思う。
穴熊、ミレニアム、急戦全部やれというのはかなりきついと思うからだ。
まだ級位レベルや、ややこしい形は嫌だという人は、急戦に絞る。
急戦は戦いになるまでの手数は少ないし居飛車に主導権があるので、知っている形にしやすい。
「藤井システムってなに?」と言う人ならば最初から穴熊なんかやらずに▲5七銀左急戦(通常の急戦)を。藤井システムがわかる人は、右銀急戦で居玉を咎めに行く。
受けに自信があったり、絶対に自分のほうが強いと自信があるのなら、穴熊を組みに行って受け潰すのがよい。
そもそも本家の藤井が、鉄板流の森内に歯が立たないのである。
その折衷案がミレニアム。
急戦は玉が薄く、穴熊は攻められるのがいやなら、これしかない。
えばぁは藤井システムと決めたら穴熊だろうがミレニアムだろうが急戦だろうが藤井システムで突っ張りとおすタイプだ。
だがアマでの藤井システムはかなりの数が、「穴熊には藤井システムをやるぜ~」と言う意思を見せ、居飛穴を使わせないための、いわば「ハッタリ」として使われているのが多く思う。
ホントに藤井システムで仕掛けてくるかどうか、本当に急戦に対応できるのかは怪しい。
そんなハッタリ藤井システム使いへ対応するのも考えると、えばぁは急戦を薦めたい。
なお、今後も少しずつ手を入れていく予定である。