えばぁの見解 中飛車編


21st September 2003


 第3回、中飛車編です。

 将棋を始めたばっかりの人が最初に飛車を振る場所、それが中飛車だと思います。
 向かい飛車・三間飛車・四間飛車・中飛車とありますが、一番相手の玉に近いのが中飛車だから採用してしまうんだと思われます。
 その中飛車を「原始中飛車」と言いますが、原始中飛車はほんとに原始的なので解説しません。
 ※ 近頃『矢倉流中飛車』と言うのが登場。手順の基礎には原始中飛車がある。 ('04.Oct追記)

 その原始中飛車のイメージがそのまま高段者&プロの中飛車だと言うのは大きな間違いで、上に行けばいくほど中飛車は受けの力が必要になってきます。
 それはこのあと書きますが、ツノ銀中飛車であろうと、ゴキゲン中飛車であろうと変わりありません。

 では、中飛車の特徴を・・・と思ったんですが、ツノ銀中飛車とゴキゲン中飛車の共通点は「中飛車に振る」くらいですので、ツノ銀中飛車からゴキゲン中飛車への変遷を、時代に沿って書いていきたいと思います。




○ ツノ銀中飛車の時代


 以前は中飛車と言ったらツノ銀・・・とえばぁは思っていました。
 原始中飛車とそれしか見たことはなかったし、原始中飛車は見るからにバカっぽく、ツノ銀のほうが本格的に見えたので。
 英ちゃん流中飛車(5筋を突かずに中飛車に振る)とかありますが、ここはツノ銀を一般的中飛車として書いていきたいと思います。

 ツノ銀中飛車と言えば、木村義雄(十四世名人・故人)と大山康晴(十五世名人・故人)の2人が使い手として有名です。
 特に木村名人のツノ銀中飛車は「木村不敗の陣」と呼ばれたほどでした。  ※ 香落ち上手での話らしい。 ('04.Oct追記)
 当時生まれてないから、又聞きの又聞きですけどね(笑)。

 それでは、ツノ銀の特徴です。


1.陣形全体の防御力が高い/玉は薄い

ツノ銀中飛車

 中飛車の場合現れる状況ですが、5八(5二)に飛車を振るために美濃囲いが作れません。
 一手余計に手をかけて5九~4八~4七と高美濃に持っていく人もいますが、手損は手損なんで。
 そのため左の金は7八(3二)に上がることが多くなります。
 よって左翼の防御力は三間飛車・四間飛車に比べて高く、簡単に破られると言うことはありません。

 それが進展すると、相当に防御力の高い陣形になります。
 その代わり玉側に金が一枚ないのは終盤響いてくるので、普通の振り飛車のように「駒損でも大さばきしてあとは堅さ勝負」という無茶な攻撃は不可能です。


2.かなり受け身の戦法

 振り飛車全般にも言えますが、特にツノ銀の場合は玉が堅くないので、持久戦になったとしても自分から攻勢に出るというのがあまりできません。
 かと言って大さばきもできず、手厚く良くしていくしかありませんので、難しい戦法だと言えます。


3.対ツノ銀中飛車の戦法

 ツノ銀の場合左金が左に上がっているため、よく見られる対四間飛車の斜め棒銀が通用しません。
 左金のおかげで角がいなくても2筋(8筋)が受かっていて、角交換にも強いです。

 そういう理由で、対ツノ銀中飛車専用の戦法が2つ存在します。
 ▲3八飛の袖飛車と、▲4六金戦法です。
 袖飛車をよく使うのが加藤一二三(現九段)です。
 ▲4六金戦法は、斜め棒銀の「銀」が「金」に代わった戦法です。
 初めて聞くと冗談に聞こえますが(正直、えばぁは最初冗談だと思った)、本当に居飛車が右金を5七~4六と出て行きます。

参考棋譜 : ▲4六金戦法
参考棋譜 : 袖飛車


※ ツノ銀中飛車が消えた事情

 今現在、ツノ銀中飛車はプロ間でもアマ高段者の将棋でも見られないに等しいほど、廃れています。
 その原因は、居飛車穴熊の登場です。

ツノ銀中飛車

 居飛車穴熊は振り飛車全般に多大なダメージを与えた戦法ですが、一番割を食ったのがツノ銀中飛車です。
 振り飛車の中では玉が薄目のツノ銀中飛車と、居飛車の中で一番玉が堅い穴熊。
 しかもツノ銀は受け身で、居飛車穴熊のほうが主導権がある。
 こうなれば攻め始める居飛車穴熊のほうが断然有利で、駒損だろうがなんだろうが攻めが繋がってしまえば玉の薄いツノ銀側はひとたまりもなく・・・。

 というのがツノ銀、ひいては一時の中飛車衰退の原因です。
 ゴキゲン中飛車によって中飛車は復活しましたが、ツノ銀中飛車は現在の第一人者・羽生に「現代将棋では相当勝ちにくい」と言われてしまい、現在も復活の兆しは見られません。
 (現代将棋・・・「玉を堅くして勝負/主導権を取れる戦法が流行する傾向」のこと)


 ツノ銀中飛車に対しての居飛車の戦法は次のような感じになります。

 急戦 : ▲3八飛戦法、▲4六金戦法、棒銀
 持久戦 : 居飛穴、玉頭位取り

 斜め棒銀が通用しない他、右四間も駒組みを工夫することによって防ぐことが出来ます。防げなかったとしても、ツノ銀は△3二金の防御力が強いため恐れることはあまりないと思います。
 居飛穴は天敵ですが、玉頭位取りもなかなか手ごわい形です。また左美濃は「中飛車は美濃囲いにこだわらないので、玉頭を直接狙われる」(『羽生の頭脳』より)と考えられ、あまり有力とされません。風車(上図の振り飛車陣で、△7二金→△6二金、△8二玉→△7二玉の形)にされて△8一飛から玉頭直撃を狙われるのが嫌われるようです。

 とにかく急戦が嫌な人には有力な形です。




○ 中飛車不遇の時代


 居飛車穴熊が対振り飛車の戦法として大流行した90年代前半は、中飛車はなかなか指されない戦法となってしまいました。そのころ奨励会にいた藤井猛(現九段)は中飛車穴熊をやっていたそうですが・・・結局四間飛車をやるようになってますし。

 一方、このころ「後手番で5筋位取り中飛車はできないか」という試みがなされます。
 その進行が、▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △5六歩 ▲2五歩 △5二飛。
 わかる人にはわかってもらえますでしょうが、これは現・ゴキゲン中飛車の後手番と同じ進行です。

 ですが、この当時は▲2四歩と▲2二角成の対抗策(ゴキゲン中飛車で後述)にうまい変化が見つからず、そのうち指されなくなりました。
 しかし、ゴキゲン中飛車の原型がこの時点で存在していたことは、ちょっとしたトリビアとして知っていて損はないと(えばぁは)思います。




○ ゴキゲン中飛車の時代


 原型は、上記のように90年代前半に存在していた力戦型の中飛車です。
 それをより研究し、使い始めたのが近藤正和(現五段)でした。
 近藤五段はゴキゲン中飛車を駆使しデビューしてすぐ10連勝、その期の竜王戦6組を優勝→ベスト8進出と、目覚しい活躍をしました。
 そのときの原動力がこの中飛車で、その後雑誌の連載で「ゴキゲン中飛車」と名づけられました。
 (近藤五段がいつもニコニコしてゴキゲンそうだからゴキゲン中飛車だそうです。)
 ※ 命名の経緯は先崎学(現八段)著の『先崎学の浮いたり沈んだり』に記されている。発案は大崎善生(現作家。元将棋世界編集長で、今は高橋和の旦那)。

 ゴキゲン中飛車は、何も知らない人は「これが振り飛車?」と言いたくなるような序盤です。
 えばぁは2年くらい前に師匠とめいじんがやっていた将棋でゴキゲン中飛車を知りましたが、実際「僕はこんなん絶対やらん」と思いました。
 師匠(ゴキゲン使い)の相手をしないとだめだったので、ちょっとはかじっちゃったんですが。

 それでは、ゴキゲン中飛車の特徴です。


1.序盤、激しい変化がある

ゴキゲン中飛車

 基本の思想は「5筋位取り中飛車をやる」だと思うんです。
 先手番ならゴキゲンの変化に突っ込まなくてもできるんですが、積極的にリードを狙うという感覚を取り入れたのがゴキゲン中飛車だと思われます。
 (5筋の位を取る前に飛車を振ることは、その後の選択肢が広いということにつながる。)
 「5筋位取りを許し持久戦になれば居飛車側は穴熊にしても指しづらい」というのが定説で、そのため居飛車側は玉を囲わないで進める超急戦が多く見られます。

 その選択肢が、
a). ▲2四歩 (居飛車ハマり形の感じだが意外とそうでもない)
b). ▲2二角成 (お互い角を持ち持久戦)
c). ▲5八金右 (お互い望めば序盤から即終盤へ突入する最も激しい変化がある)
 ※ この変化(▲7五角)でゴキゲン側が自信ないと思われていたが、現在はゴキゲンもやれるようだ。 ('05.Nov追記)
d). ▲7八金 (居飛車の穏健策)
 の4つです。


2.急戦では位の確保が問題

 90年代前半にゴキゲンの原型が現れたときもこれが問題になりました。
 5筋の位を居飛車側が取り返しに行こうとする手があって、これもなかなか難しい戦いになります。

 

3.持久戦になれば位が生きてくる

ゴキゲン中飛車

 当初の念願の5筋位取り中飛車に組めたわけなので、持久戦では相当効いてきます。
 たとえ居飛車が穴熊にしたとしても、▲5七銀(△5三銀)型ではないので穴熊がすごく堅いわけではなく、中飛車側は穴熊にしても美濃囲いにしても相当に戦えます。

 こういうメリットが存在するため、居飛車側は持久戦にすることはあまり多くなく(穴熊なんか余計に)、超急戦or急戦を選択することが多いようです。


4.実は攻めより受けのほうが大事

 居飛車側の有力対策は超急戦なので、仕掛けてくるのは全部居飛車、中飛車側はそれに対応した手を指さないと(知らないと)いけません。
 特に▲5八金右の変化は過激かつ難解で、受ける中飛車側はちょっと間違っただけで壊滅的状況に陥ります。

 ということは、「攻める振り飛車」って言われますが、結局本質はカウンターなわけで、かつかなり受けなければいけない・・・と気づいたのはえばぁではなく師匠です。
 序盤からリードを求めていく、新しい感覚の振り飛車ではありますが、決して中飛車側から攻めに行くわけではないですし。なかなか難しい戦法だと言えます。

※ 避けようと思えば超急戦は避けられる
 これは・・・窮余の策ですけど。
 居飛車が飛先の歩交換に来たら、それに応じたあと▲7八金(△3二金)って上がればいい。
 それを薦める人もいるそうです。
 でもなんだか、あまりゴキゲンではないと思うのはえばぁだけでしょうか。



 序盤からの積極性を売りに、ゴキゲン中飛車は流行への道を突っ走ります。
 そしてついにタイトル戦でも登場、現在は羽生や谷川、佐藤康までもがタイトル戦でゴキゲンを1回は使うという状況、アマチュアでも本が出て流行しているのが現状です。

 参考棋譜 : 2003年王位戦・谷川対羽生戦 (解説等なし)

 個人的には、初心者の中飛車は攻め一辺倒、うまくなってくるとじっくり受けてくる感じではあります。
 ですが最近はゴキゲン中飛車が出たので、勉強さえすれば中飛車のみで将棋を指すことも可能・・・と言うのはこの間出た森下八段の「なんでも中飛車」の受け売りです(笑)。
 あの本はチラッと見ましたが初手5八飛、そこから力戦(角道を止めない)、ツノ銀、相振りとやる、ほんとに中飛車だけの本でした。

 ・・・ん、相振り書いてない。
 ではここから相振り中飛車を(笑)。



○ 相振りにおける中飛車


 相振りで中飛車・・・と言うのは、中飛車しか「できない」人を除くとあまりいないような気がします。
 ゴキゲン中飛車の近藤五段がやってましたけど、なかなか指せるものでもないと思います。
 初手5六歩だったような気がしますし。
 ※ 初手▲5六歩は『新ゴキゲン中飛車』と言われる。ゴキゲン中飛車とはまた違った変化になるので注意。 ('04.Oct追記)  

 相振りにおける中飛車は、だいたい5筋位取りをして浮き飛車に構え、相手の飛先交換をけん制しつつ三間(石田流)に構えていく・・・と言うようなものが多いでしょうか。
 あんまり見ないのでわからないですけども、えばぁがやる場合そうやります。
 そのまま2段目(8段目)にいたら、居飛車対中飛車の時と同じで左金が使いにくいですから。

 ちなみに浮き飛車にせずそのまま銀を出て行くのは、鈴木大介(現八段)の本で「三間飛車にしてよし」と言われています。
 ただ、5筋位取りがいいかと言われると微妙なところで、角交換になれば打ち込みの隙が増えるなど、慣れない人には指しにくい面があります。

 というわけで、中飛車は相振りではあまりお勧めできない振り場所です。
 ただ、相手が相振りうまいことがわかっていて、あえて定跡(大してないですけど)を外す・・・という実力者になれば別ですが。



○ まとめ


 ぐだぐだ書いてきましたが、結論として、格上の人に対して中飛車にするには相当な覚悟が必要だと思います。
 ツノ銀にせよ、ゴキゲンにせよ、玉が薄いという問題は付きまとってくるからです。
 中飛車に振る人は、場合によっては居玉でも中央突破を目指す初心者か、相当研究している実力者か、勝ち負けどうでもいいと思っている人か。
 急戦嫌いな人は好んで左金を左に上がってもいいですが、その代わり持久戦で苦労することは頭に入れておいたほうがいいでしょう。

 えばぁは、乱戦が好きじゃないのでツノ銀中飛車を選ぶことが多いです。
 組みあがったときの形がかっこいいからです(笑)。
 その代わり穴熊になるのは仕方ないですが。
 ツノ銀中飛車にちょっと似た「風車(かざぐるま)」という戦法がありまして、端から穴熊攻略を狙うこともありますが、玉が薄いので受け一方の将棋になりやすいのは避けられません。
 攻め合ったら負けるのはこちらですし。
 だから、ツノ銀中飛車はえばぁにとっては一発芸みたいなもんです。
 ゴキゲン中飛車に至っては▲5八金右だと自信ないです(笑)。

 これくらいで、第3回中飛車編、終わりにしたいと思います。
 ゴキゲン党ではないので最新の事情についてはかなり疎く、ほんとに基本的なことしか書けていません。
 それでも、中飛車の入り口くらいは書いたと自分では思うので、・・・参考になれば幸いです。

 次回はラスト、三間飛車になります。

続編・居飛車穴熊対中飛車の研究


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